人手不足から戦略的採用へ――ネパールから30名以上を採用したメーキューが挑む調理人材のグローバル採用
- Masato Yano
- 50 分前
- 読了時間: 12分

学校給食や企業・病院・医療施設など幅広い施設で食事の提供を行うメーキュー株式会社は、人手不足が深刻化する給食業界において、グローバル採用に注目。Connect Job(フォースバレー・コンシェルジュ)を通じて、ネパールから30名以上の外国人の若手調理人材を採用しました。
今回は、メーキュー株式会社の外国人材採用の旗振り役である山本氏に、採用に至った背景、現場で直面した食文化や日本語の壁、3回にわたる選考会を通じて得た成果、そして長期定着を見据えた取り組みや今後の展望について伺いました。
ゲスト:
メーキュー株式会社
代表取締役社長 山本 貴廣氏
購買本部メニュー開発OP 部長 高原 斉氏
事業所責任者 市川 涼子氏
事業所責任者 北村 浩和氏
インタビュー:
フォースバレー・コンシェルジュ株式会社
合田 美緒
執筆・編集:中川莉沙
目次
調理人材不足に応えるネパール人材の魅力
── ネパール人材を採用しようと考えた理由は何ですか?
山本:ネパールから調理スキルを持つ人材を紹介していただける点に魅力を感じました。
当社の現場では、特にパートタイムにおいて高齢化が進んでいます。その中で、若手で調理経験のある人材を採用できることは大きなメリットでした。体力面と専門スキルの両方を補えることが、ネパール人材を採用する決め手になりました。
── そもそも弊社を知ってくださったきっかけは?
山本:友人の紹介です。そこで、フォースバレー代表の柴崎さんとつながってお話をいただき、ネパール人材の調理スキルに魅力を感じて採用を始めました。実際に採用をスタートしたのは2023年7月です。
── ネパール人材の採用は初めてだったと思いますが、当初どのようなイメージを持っていましたか?
山本:ネパール人の方を見る機会といえば、コンビニなどで働いている方をよく見ていたこと、以前に大戸屋のフランチャイズを運営していた際に、留学生のアルバイトを採用した経験がある程度でした。あとは「カレー」や「インドに近い」というような漠然としたイメージでしたね。
── 実際にネパールに行ってみた印象はいかがでしたか?
山本:皆さん素直で純粋な方が多い印象でした。国民性として非常に魅力を感じたので、「追加で採用していきたい」と思うようになりました。
特に給食や外食の現場ではどちらかといえば真面目にコツコツ取り組む姿勢が求められますので、その点で非常にマッチしていると感じました。面接の際にも、そういった人柄を重視して見ていました。

ネパール人の国民性に惹かれたと語るメーキュー株式会社代表取締役社長 山本 貴廣氏
食文化の違い、日本語力の不安。採用前に感じた“壁”
── 実際にネパール人材を採用する際、課題や懸念点はありましたか?
山本:宗教の影響による食文化は気にしていました。ネパールは、ヒンドゥー教の方が多く、牛や豚は避け、チキンやベジタリアンが中心です。日本では牛や豚を扱うことも多く、当社も例外ではないためそこは懸念点でした。
また、ネパール料理はスパイス中心で、日本の煮物のような「醤油や砂糖の甘辛い味付け」の料理がほとんどないと聞きました。食文化の違いがあるのは当然のことなのですが、日本で食事を提供する上では和食の基本的な味付けに慣れてもらう必要があると感じています。とはいえ、揚げ物などは問題なく対応できる方が多いので、時間とともに慣れていくものだと思います。
── 日本語力については、採用前に懸念はありませんでしたか?
山本:今はベトナム人、ネパール人、インドネシア人、ミャンマー人と、4ヵ国から特定技能や技能実習で採用しています。N3レベルを取得して来日する方から、まだまだこれからという方もいます。
日本語ができる方に入社いただきたいのはもちろんですが、入社後の日本語教育も視野に入れなければ採用が難しくなるのも事実です。「日本語力は現場で育てるもの」として社員にも繰り返し伝えて理解してもらい、現在外国籍スタッフは100名ほどの体制になっています。
── 採用時に重視していたスキルや経験はありますか?
山本:もちろん調理スキルは大切ですが、それ以上に「誠実さ」を重視しています。これは外国人材に限った話ではなく、会社の社是である「誠実」「刷新」を体現できる人柄を求めています。
特に最初は国民性や文化も違うので、面接の中で「うちの会社にフィットしそうかどうか」を見極めることが大事だと考えています。第一印象や受け答えの姿勢から「誠実にコツコツ働ける人か」を判断しています。
期待を超える即戦力。3回の選考会を通じて30名以上を採用
── トータル3回の選考会を通じて、採用した人材の印象や成果はいかがですか?
山本:印象としては、現場によって多少仕事内容に違いはありますが、積極的に調理に挑戦する人材が多いです。すでに現場でバリバリと調理を担当しているスタッフもいますし、ネパールの方は皆学習意欲が高いので、周りの日本人スタッフもいい刺激を受けています。
入社時に日本料理の知識がなくても、マニュアルを見ながら計量し、正しく手順を踏んで調理する仕事にすぐに順応してくれました。その意味で、彼らは「即戦力」になり得る人材だと思います。日本人とは違う部分もありますが、お互いの個性を認めながら日本への理解を深めてもらえるよう、コミュニケーションを大事にしています。
【研修担当者の声】ネパール現地での調理実習
合田:2024年7月に実施した3度目の選考会では、当時ネパールで日本語を学習中の1期生・2期生19名を対象に、調理実習を行いました。研修をどのように振り返りますか?
高原:これまで2回にわたり調理実習を担当しましたが、楽しく、そしてたいへん有意義な実習ができました。海外のホテルやレストランなど、しっかりとした技術を持っている人も複数人おり、将来的に会社の中心になっていく人材がいることを楽しみに感じました。
実習中は日本語と英語を交えコミュニケーションを取りながら、無事に終えることができました。
ネパール人たちは真面目で落ち着いた人が多く、その誠実な人柄が現場に良い影響を与えてくれると感じました。
【現場の声①】入社から約8ヶ月が経ちましたが、ネパール人スタッフの活躍はいかがですか?

市川:実際に受け入れたネパール出身の2名はいずれも非常に真面目で素直です。指示をきちんと守り、分からないことがあれば自ら積極的に質問する姿勢が印象的です。周囲のパートスタッフも積極的に声をかけたり、日常的な買い物に誘ったりと、彼らが現場に馴染めるようコミュニケーションを大切にしています。
ネパールで培った包丁さばきや調理スキルも高く、私が調理する様子をみてメモをとり、後半は自分でこなすなど、さらにスキルアップしています。本人も意欲的なので、お客様対応で求められる日本語力がさらに向上すれば、いずれ現場全体を任せられるようになるのではと期待しています。
── 言語面はいかがですか?
市川:受け入れ初日から日本語での会話を基本としていたこともあり、問題なくコミュニケーションを取れています。日本語で言葉が出てこない時は、翻訳アプリを活用しながら理解を深めています。
【現場の声②】ネパール人スタッフの仕事ぶりはいかがですか?

北村:入ったばかりの時は、なかなか打ち解けられない実習生もおり案じておりましたが、入社して半年ほど経った頃から、笑顔も増え、目に見えて成長しているのを感じます。下処理のスライサー業務を任せていますが、今ではこちらが指示を出さなくても手順書を見ながら確認して進められるようになりました。
また、人手が足りない日はパートさんと一緒に他の仕事もしてもらっていますが、持ち前の明るさですっかり打ち解けているようですし、テキパキと仕事をしてくれて助かると他のスタッフも喜んでいます。
── 日本語の理解度についてはいかがですか?
北村:私たちが話している内容は大体分かってくれていますが、スピーキングはまだ難しさを感じる部分があります。また、話すスピードが速いと分かりづらいようなので、ゆっくり話すよう心がけています。
彼らも「まだまだ日本語を勉強しないといけない」と言っていますので、ぜひもっと頑張ってもらえると嬉しいですね。日本語ができるようになれば、難易度が上がる他の業務ももっと任せられると思っています。
── 外国人社員の教育という点で特に意識していることはありますか?
北村:わからないことはすぐに確認するよう伝えています。
また、衛生については特によく伝えるようにしています。ネパールなどの海外と比較すると日本の衛生水準はかなり高いため、「安全な食事提供」のために衛生に対する意識を高めてもらえるよう教育が必要だと感じます。
── 今後、彼らに期待することは何でしょうか。
北村:当施設はある程度の規模があり分業制であるため、現状は下処理業務をメインに担当してもらっていますが、この業務はほぼ100点だと思います。本人たちも新しい作業に挑戦したいという意欲がありますので、ゆくゆくは調理、配膳といった業務を任せていきたいと考えています。
選考を重ねるごとに、採用基準と事前研修の精度が向上
── 1期生、2期生と選考を重ねるごとに、採用要件は変化していきましたよね。
山本:そうですね。1期生のときは、まだ条件を厳しくせずに採用しました。こちらも、1回目は「とりあえず行ってみよう」という気持ちで飛び込んだところはありますね。
2期生からは「1年以上の調理経験」を条件に加えました。やはり調理経験があるだけで大きな強みになります。例えば、包丁で野菜をきちんとカットできる、それだけでも現場にとってはありがたいです。
── 回を重ねるにつれて、採用基準で重要と感じたポイントはありますか?
山本:3期生では「できれば海外での経験がある方」という条件を追加しました。
特にネパールの方は中東で働いた経験を持つ人が多いです。中東での仕事環境は、日本以上に厳しい場合もあり、そのような経験を持つ人は「粘り強い」と考えられます。
私たちの調理現場も体力やタフさが求められる場面があるので、そうした経験がある人は適応力が高く、安心して採用できると感じています。
現在、3期生の5名がちょうど在留資格申請中で、そのうちの数名は海外経験も持っています。今後どのように活躍してくれるか楽しみにしています。
── 選考会は総じて「成功」と捉えていらっしゃいますか?
山本:回を重ねるごとに経験が積み上がり、自分自身も調理経験などを深く聞けるようになってきました。その結果、より良い人材を絞り込めるようになってきたので、成功だと考えています。
現地の国の状況や、候補者の調理スキルを深く確認できるようになったのは大きいですね。
── 面接後、1ヶ月ほどで日本語教育が始まり、内定者面談、在留資格申請などを進めていきましたが、内定から入社までの弊社のサポートについて、感想や改善点はありますか?
山本:現在の日本語教育では取り入れていますが、「業種ごとに必要な専門用語」のインプットが重要だと感じています。例えば、調理現場では「煮る」「焼く」といった調理動作の言葉や、調理器具の名称などが必要不可欠です。
── 入国前に衛生管理に関する動画資料も共有いただきましたね。
山本:日本の衛生管理は海外と比べて非常に厳しいです。単に話に聞くだけではイメージが全く異なると思いますし、現地の文化や習慣とは大きく異なるため、来日前に知識を持っていてもらうことが重要です。
合田:実際、候補者の一人と話した際に、「日本の衛生基準は(良い意味で)衝撃的だった」「日本以上に厳しい国はないと思う。けれどそれがとても好きだ」と言っていました。こうした声を聞くと、事前教育の大切さを改めて感じます。
5. Connect Jobの伴走型サポートとスクリーニング
── 弊社のサポートについて、どのように感じていますか?
山本:面接前から入社に至るまで、しっかりとコミュニケーションをとってくれていると感じます。採用した候補者一人ひとりに寄り添い、信頼関係を築いているからこそ、定着に繋がっていると思います。
合田:ありがとうございます。面接時から担当させていただいているので、その候補者の方たちが入国し実際に働く姿を見ると込み上げるものがあります。
── 弊社のサービスを他社に勧めるとしたら、どのような点が魅力的だと感じますか?
山本:外国、特にネパールで調理経験を持つ人材をスクリーニングして紹介してくれる点は、飲食業界にとって非常に魅力的です。即戦力となる人材を確保できるのは大きなメリットだと思います。
さらに、ネパール人は英語を話せる人が多いのも強みです。もちろん日本語でのコミュニケーションが前提ですが、英語が使えることで安心感があります。ベトナムやインドネシアの方は英語を話せる人が少ないので、その点でもネパール人材は差別化できると感じています。
── 入社した外国人社員に期待していることは何ですか?
山本:まずは日本語力を伸ばしてもらいたいです。長く働くのであればN2レベルを取得してもらい、日本語での業務適応力を高めてもらいたいと思っています。
最終的には、店舗の責任者や店長など、マネジメントを担える人材になってほしいです。外食・給食産業はオペレーションの複雑さから難易度が高いですが、数年かけて経験を積み、活躍してもらえることを期待しています。
また、特定技能で2年ほど経験を積んだ後、後輩の育成やマネジメントにも挑戦してもらいたいです。本人の成長意欲に合わせて、後輩指導を通じてさらなる経験を積み、組織で活躍してほしいと考えています。

入社した外国人社員にはマネジメントを担える人材になってほしいと語る山本氏
6. 人手不足対策から前向きな戦略へ。成長を支えるグローバル採用
── 御社にとってのグローバル採用とは?
山本:最初は人手不足を補うための手段でしたが、現在はいかに教育して戦力化していくか、長く続けて働いてもらうかという視点で考えており、日本人新卒採用と同じくらい大切なプロジェクトです。
フィット感のある採用とその後の教育のためには、やはり、経営に近い人がその国に行き現地の雰囲気、国民性を知ることが大切だと思います。また、マニュアルを整備するなど、現場の仕組みを整えていく必要もあります。
こうした取り組みを重ね、今後もより良い採用活動をしていきたいと考えています。



