運転士不足を乗り越えて――ネパールで特定技能ドライバー16名を採用した阪神バスが語る“外国人採用の最前線”
- Masato Yano
- 13 分前
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関西エリアを代表するバス事業者、阪神バス株式会社は、運転士不足が深刻化するなか、初めて海外での外国人採用に挑みました。Connect Job(フォースバレー・コンシェルジュ)を通じてネパールで選考会を実施し、16名の特定技能人材を採用。候補者からは「家族を経済的に支えるために日本で働きたい」という覚悟や熱意が伝わり、ドライバーとしてのポテンシャルを感じ取ることができたといいます。
同社が目指すのは、国籍を問わず「同じ仲間」として共に働ける環境を整え、外国人採用を“特別なこと”ではなく“当たり前”にしていくこと。今回は、採用を決断した背景、現地で感じた文化や交通事情の違い、候補者に託す期待、そして未来に向けたグローバル採用の展望について伺いました。
ゲスト:
阪神バス株式会社
経営企画部
部長 岡 伸治氏(以下、岡)
主任 大須賀 梨央氏(以下、大須賀)
インタビュー:
フォースバレー・コンシェルジュ株式会社
大庭 良介(以下、大庭)
執筆・編集:中川莉沙
目次
初めての外国人採用――特定技能ドライバー海外採用への挑戦
大庭:特定技能を活用し、初めてネパールでの選考会に挑んだ背景をお聞かせいただけますか?
岡:当社のバスドライバーはコロナ前は約460名体制でしたが、現在は減少しており400名程度です。日本国内でドライバーの人材不足が深刻化するなか、従来の採用方法だけでは回復が難しいと判断して特定技能「自動車運送業」での採用に踏み切りました。
ネパールの方は英語が堪能で学習意欲が高く、日本社会への適応力も期待できます。さらに、フォースバレー・コンシェルジュ(以下、フォースバレー)さんの取り組みはネパール政府からも賛同を得ており、政府と公式に連携して進められている点も信頼できるポイントでした。

国内のドライバー不足を受け特定技能での採用に踏み切ったと語る阪神バスの岡伸治氏
大庭:数あるエージェントの中で、Connect Job(フォースバレー)を選んだ理由をお聞かせいただけますか?
岡:先行事例があり信頼できると感じたことに加え、現地調整から通訳、候補者との橋渡しまで一貫対応いただける点が心強かったです。候補者から費用を一切取らない姿勢も含め、候補者にとっても「安心して応募できる環境」が整っていることも、後押しになりました。
大須賀:拝見した事例でも、密にクライアントとコミュニケーションをとっていることが印象的で、今後長いお付き合いになるかなということも含め、一緒に築き上げていければいいなと感じました。
大庭:実際に選考会でネパールを訪れて、感じたギャップは?
大須賀:空港に着いた瞬間から、五感すべてで文化の違いを感じました。お会いした候補者は温厚でフレンドリーで、愛嬌があって笑顔も多く、「一緒に働きたい」と素直に感じました。

ネパール人の候補者に会い「一緒に働きたい」と感じたという阪神バスの大須賀梨央氏
現地で実感した文化の違いと言語への不安
大庭:ネパールの候補者を採用する際に感じられた課題・懸念点はありましたか?
岡:やはり言語面は、お客様の安心に直結する部分なので心配していました。しかし面接で対話する中で不安は薄れ、乗り越えられると感じました。
大庭:どのような点で乗り越えられると感じたのでしょうか?
岡:みんな一生懸命なところですね。面接をしっかり準備したことはもちろん伝わってきますし、候補者の熱意と、言葉に込められた意思の強さを感じました。
純粋に日本で働きたいという気持ちが前面に出ていたのが印象的です。候補者の言葉の節々から、「家族を経済的に支えるために日本で働きたい」という強い覚悟が見えました。

大庭:彼らの熱意を肌で感じていただけて嬉しく思います。他の企業様からも、日本人の採用面接では感じられない、熱意、懸命さに胸を打たれる瞬間があると仰います。
大須賀さんはいかがでしたか?
大須賀:文化の違いも懸念としてありますね。
採用試験中に日本に対する印象を聞いたところ、ルールに厳格で、必ず守らないといけない、堅苦しいイメージを持っている人が多かったことに驚きました。もちろんルールはありますが、普段のコミュニケーションや社員同士の関わりすべてがそうではないので、文化の違いからカルチャーショックを受けないように、ケアしていきたいと思います。
大庭:内定した方々に期待することはなんでしょうか?
岡:お客様の中には「外国人運転士」というだけで安全面に不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、現場でその期待を良い意味で上回る活躍をしていただければ、その評価はむしろ高まると思います。外国人運転士とともに信頼と評価を築いていきたいと思います。
大庭:そのほか、内定者のみなさんとの関わりで印象に残った出来事はありますか?
大須賀:内定後の日本語の授業を開始するオープニングセレモニーには、内定者が奥様とお子さんを連れて参加され、家族と共に挑戦している姿から温かみを感じました。我々もその様子から、より親近感を抱くことができました。

16名が内定。採用で重視したのは“人間性”
大庭:今回の選考会は、総じて成功と言えるでしょうか?
岡:16名の内定という成果も得られ、成功と捉えています。
ただ、事前選考から当日の面接までの進め方など、改善できる点はあるので、これからに期待しています。継続的な取り組みが、今後の採用の成功につながると考えています。
大庭:採用時、どのスキル・経験を重視しましたか?
岡:運転経験は日本と交通前提が違うため、公共交通に携わる責任感や学習・努力への前向きさなど人間性、語学力をより重視しました。
事前準備の段階では、「安全意識」について確認しようと思っていました。模範解答は「速度を抑えて、車間距離を保つことを意識します」でしたが、実際にネパール現地の交通状況をみると、交通ルールが違うことを前提に面接しなければと思いましたね。

交通ルールや安全意識が異なることを前提に、人間性を評価する面接を行ったと語る岡氏
大庭:実際に面接されてみた印象はいかがでしたか?
岡:履歴書の写真の印象よりも、実際に会うと物腰柔らかな印象を受ける方が多かったです。
日本語力は思ったよりも高かったですね。100%ではないものの、意思疎通は十分可能だったので想定より話せるなと感じました。
大庭:言語の面で特に注意して確認した部分はありますか?
岡:翌年の7月までにN3を取れる見込みと、英語がどの程度できるかを重点的に確認しました。勉強期間に対しての上達度を確認して、今後どのくらい上達するのか見立てていきました。
大庭:そのほかに重視されたポイントはありますか?
岡:笑顔・受け答え・雰囲気など、現場やお客様に「可愛がられる素質」があるかどうかもみていましたね。
大庭:接遇の業務も求められるので、ホスピタリティのポテンシャルも重要になってきますよね。適性検査については、OD式のものを実施されていましたよね。
岡:初めての外国人ドライバー採用という点で、客観的に運転適性を評価するものとしても実施しました。
スクリーニングから定着までの伴走支援と、現地スタッフから感じた熱意
大庭:弊社のサービスへの満足度はいかがでしょうか?また、他社に薦めるとすれば、どのような点が魅力的だと考えますか?
岡:事前にスクリーニングをしてくださっているので、素晴らしい候補者が集まっていたと感じています。日本語能力が少し足りない方は、それを上回る何かがあるなどその候補者が選ばれる理由があり、面接の際は大変有難かったです。
内定後の勉学進捗のフォローや当社への報告体制も丁寧で、採用から定着まで一貫して伴走してくださる点が魅力です。弊社から要望を出したり、質問をさせてもらっていますが、都度対応くださって頼もしいですね。候補者への金銭的負担がないことや、ネパール政府との公式連携による安心感も、他社に自信を持って薦められる点です。
大須賀:ネパール現地で対応してくださった方も素晴らしく、ハングリーさ、バイタリティを感じました。一緒に採用を進められること、一緒に仕事できることが刺激的で楽しい時間でした。
大庭:たくさんお褒めの言葉をいただきありがとうございます。
確かに、社風として、やるかやらないかよりも、やるためにどうしたらよいかを考える文化ではありますね(笑)
大須賀:今後、内定者の方の日本語教育の進捗など、フォースバレーさんからレポートをいただくことになりますが、授業の報告を受けるだけでなく、内定者が来るのを待っているというのが伝わるように密にコミュニケーションをとっていきたいですね。伴走型での継続支援をぜひお願いします。
大庭:ありがとうございます。弊社の想いとしては、企業様に伴走するような形で入国・入社、定着するところまでやっていきたいという想いですので、今後も引き続きお願いいたします。
「まだ珍しい」から「当たり前」へ――業界を先導する先行事例をつくりたい
大庭:外国人のバスドライバー採用に対してまだまだハードルが高い印象なのですが、どうでしょうか?
岡:心理的ハードルは正直あります。ただ、いずれ多くの企業が取り組むと考えているため、先行して実績を作ることが重要と考えています。面接では候補者からも「外国人は働いていますか?」と問われる場面があり、先行事例は採用・定着にも効果があると実感しました。
大庭:素晴らしいですね。
現在、ネパールでバスドライバーになるための切符を持っている人材は約60名います。
日本のバス会社間の広がりでネパールでの採用が開始したり、候補者間での口コミで応募が集まったりと、横のつながりが増えて、いい循環が生まれてきているなと感じますね。
大庭:海外採用に対して、採用コストについてはどのようにお考えですか?
岡:運転士1名あたりの売上見込みが定量化できるため、回収可能と判断しています。欠員補充を差し引いても、純増分で十分に回収できる見込みですので、コストをかけることに対しては問題ないと考えています。

業界を先導する先行事例をつくりたいと語る岡氏と大須賀氏
グローバル採用は“当たり前”になる未来へ
大庭:最後に、御社にとっての「グローバル採用」とはなんでしょうか?
岡:日本人の労働人口が減少する中、外国人材の活用は避けて通れません。今はまだ珍しく感じられますが、将来は「当たり前」として受け入れられる時代になるでしょう。国籍に関わらず「同じ仲間、同じ社員」として自然体で共に歩んでいく。これが、私たちの考えるグローバル採用です。
大須賀:言葉としての「グローバル採用」にとらわれず、誰もが働きやすい環境を整えていきたいです。
大庭:先見性をもったお考え、採用方針で素晴らしいなと感じます。外食やホテルなどホスピタリティ業界でも、少し前は外国人が働くことが珍しかったですが、今では当たり前になったことと同じように、阪神バスの挑戦は、バス業界における外国人採用の新しいモデルケースとなりつつあります。この度は、貴重なお時間ありがとうございました!