多国籍社員が“当たり前”に活躍する時代へ――特定技能で変わる宿泊業、一の湯の外国人採用と定着支援のリアル
- 2022 intern
- 2025年12月23日
- 読了時間: 8分

旅館・ホテル運営を手がける、箱根を代表する株式会社一の湯。同社では近年、多国籍なスタッフが活躍しており、特定技能制度を活用した外国人採用を本格化。2024年にはネパールで初めての越境採用に挑みました。
宗教や文化、言語の壁を乗り越え、「誠実に教え、共に学ぶ」という姿勢で、着実に定着と成長を実現してきました。
本記事では、代表の小川社長と人事担当の大野氏に、ネパール人材を中心とした採用の背景、現場での工夫、そして“多国籍のスタッフが当たり前に活躍する未来”に向けた展望を伺いました。
ゲスト:
株式会社一の湯
代表取締役社長 小川 尊也氏(以下、小川)
店舗運営本部長 大野 正樹氏(以下、大野)
インタビュー:
フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 合田 美緒(以下、合田)
執筆・編集:中川莉沙
目次
1.初めての越境採用――ネパール採用を決めた背景
── 現在、一の湯さんでは多くの外国籍スタッフが活躍されていますが、どのような国籍の方々が在籍されていますか?
大野:ネパール、ミャンマー、ベトナム、インドネシア、スリランカ、バングラデシュなど、非常に多国籍なメンバーが働いています。現在およそ50名のスタッフが活躍しています。
── 今回、ネパールでの採用を決められた背景を教えてください。
小川:きっかけは、以前から当社で働いていたネパール出身の社員です。とても真面目で誠実で、常に一生懸命に仕事に取り組んでくれていました。その姿を見て、ネパールの方に良い印象を持っていました。
合田:初めての越境採用だったということですが、課題はありましたか?
小川:特定技能の採用を進めるうえで、日本語力の課題がありました。そのため、フォースバレー(Connect Job)の「現地で1年間日本語教育を受けてから来日する仕組み」がとても魅力的でした。結果的に、その安心感から選考会をお願いすることになりました。

2.文化・言語の壁を越えて――入社した6名の活躍ぶり
── ネパールの方はヒンドゥー教徒が多いですが、宗教面で配慮されたことはありますか?
大野:はい。宗教上の理由で業務に支障がないかどうかは、その都度確認していました。お互いに気持ちよく働けるよう、文化・宗教への理解を大切にしています。
── 今回入社した6名の印象はいかがですか?
大野:全体で言うと、フレンドリー、親切でホスピタリティの気持ちが前面に出ていると感じます。仲も良いですね。
合田:休日にはConnect Job経由で入社した同期と東京観光をしたり、先輩にトレッキングに連れて行ってもらったりと、交流が生まれているようですね。
── 現場での活躍はいかがですか?
大野:とても良いですよ。お客様からの評価が届く仕組みがありますが、ネパールから入社してくれた社員は皆さん評価されていますね。彼らの笑顔、フレンドリーで親切な人柄が、日頃の接客に現れているのだと思います。
ネパールの方は普段から髪型をセットしている方が多いと思いますが、身だしなみや清潔感にも気を配るなど、基本的な対応もできています。
合田:彼らからも「英語での接客が喜ばれた」という声を聞きました。
「他の日本のホテルにたくさん泊まったが、英語での接客がありがたかった」とお客さんから声をかけてもらったそうです。

── 入社後の困りごとはありますか?
大野:みんな前向きなのですが、「わからない」と言いづらい点があります。国民性として“できないと言ってはいけない”と感じる方も多く、理解度を丁寧に確認するよう心がけています。
3.「日本語勉強中」バッジ――小さな工夫でお客様とのコミュニケーションを絶やさない
── 今回は内定後に1年弱日本語教育を受け、N3~N4で入社するという形式でした。実際に仕事を開始してみて、どのように評価されていますか?
大野:採用時の日本語力をより厳しくする必要はないのかなと思います。「N3以上でないと採用できない」ということはありません。N4の方でも意欲が高く、吸収力がある方は多いです。“伸びていく力”や、学習意欲があれば、問題ないと考えています。
合田:現場で印象的だったのが、「日本語勉強中」と書かれたバッジです。導入された背景を教えてください。
大野:一の湯では、日本語力が満たない外国籍スタッフがこのバッジを身につけています。お客様に「学びながら働いている」ということが自然に伝わり、会話のきっかけになることが多いです。
合田:お客様との距離も縮まりそうですね。
大野:はい。バッジを見て、易しい日本語で話しかけてくださったり、冗談を交えて声をかけてくださることもあります。スタッフ自身も安心して働くことができ、現場全体の雰囲気も穏やかになっています。
合田:小さな工夫ですが、スタッフとお客様の間に自然な信頼関係が生まれているのが伝わってきます。
4.「人柄」と「ポテンシャル」を重視――採用基準とConnect Jobへの評価
── 面接ではどのような点を主に評価していましたか?
小川:人当たりの良さと笑顔ですね。経験は重視していません。むしろ一の湯のやり方を素直に吸収してほしいので、経験がないことがプラスに働くこともあります。
合田:今回の選考会はどのように評価されていますか?
小川:成功だと思っています。
大野:6名が同時期に入社することが分かっていたので、人員計画を立てやすかったです。都度紹介のスタイルでは実現が難しかったと思います。

── 内定後は、在留資格の申請や定期面談などでサポートさせていただきました。Connect Jobに対するフィードバックがあればお願いします。
小川:定期面談は継続的に関われる感覚があり、よかったです。
大野:1か月ごとに日本語力が伸びていく様子が分かり、受け入れまでの準備を一緒に進めている感覚がありましたね。
小川:現地での日本語教育や特定技能試験のサポートを担保してもらえる点も非常に心強いですね。外国人材を戦力として受け入れたい企業にとって、とても優れたサービスだと思います。
合田:ありがとうございます!私たちも選考から入社までを見届けることができて嬉しく思います。
5.生活サポートから学習支援まで――安心して働ける環境づくり
── 入社時の受け入れで苦労されたことはありますか?
大野:やはり初めての越境採用だったので、すべてが初めてで戸惑いはありました。入国後、住民票や銀行口座、SIMカードの手続きを行い、2〜3日かかりましたね。時間もかかりますが、安心して生活を始めてもらうために欠かせないサポートと考えています。
合田:入社後も日本語の勉強会を開催されているのでしょうか?
大野:月1回の日本語勉強会を実施しています。12月にはJLPT N3を受験予定で、それに向けて学習に励んでいます。
単なる語学力の向上だけでなく、違う店舗で働く外国人社員が一堂に会することでコミュニケーションが生まれることにも、意義があると考えています。
6.定着と成長を支える“伴走”――教える文化とキャリアパスの確立
── 定着支援において、特に意識されていることはありますか?
大野:「ちゃんと教える」ことです。外国人だからといって安価な労働力として扱うのではなく、日本人と同じ、あるいはそれ以上に活躍してほしいと考えています。そのためにも日本語力とスキルの両方を磨いていくことが重要です。
合田:現場社員が仕事を教える場面が多いと思いますが、社内全体にそういった文化があるのですか?
大野:現場にも「教えないと現場が回らない」という意識が共有されています。
小川:単身で日本にきて仕事をしていることに対して、外国人社員を“人としてリスペクト”していることもありますし、教え合いながら成長していくことが基本だと考えています。
── 6名の新入社員には、今後どのような成長を期待されていますか?
大野:まずは現場仕事を一通り覚え、ゆくゆくは後輩を育てる立場になってほしいです。すでに3名はフロント業務を担当していますが、日本語力が上がれば、よりコミュニケーションが求められる業務にも挑戦できると思います。
7.“外国人採用が当たり前”になる未来へ
── 最後に、一の湯さんにとって「グローバル採用」とは何でしょうか?
小川:「優秀な人材を採用できるツール」です。外国で働く決意を持って来てくれる方々に、誠実に教育と機会を提供することが私たちの役割だと考えています。将来、彼らが叶えたい夢を実現できるよう、引き続き支えていきたいです。
大野:一の湯が今後店舗数を増やしていくうえでも、異なる文化や考え方に触れてきた人材が社内にいることは非常に重要です。これからの時代、グローバル採用は特別なことではなく、自然な選択になっていくと思います。
多様性を受け入れるのは簡単なことばかりではないですが、宿泊業界という意味では必要なことと捉えています。

小川:箱根町の人口は約10,000人ですが、うち1,200人ほどが外国籍です。人口比率10%を超えていて、全国でもかなり高い割合です。もはや外国人材は「珍しい存在」ではなく、地域や観光業を支える“当たり前の存在”になりつつあります。
合田:御社の取り組みは、人手不足に悩む宿泊業界にとって、大きなヒントと希望を与えてくれる事例だと感じます。人を信じ、教え、共に歩む。この姿勢こそが、グローバル採用を成功へ導く本質なのだと感じました。




